みんなのひきこもり

こんにちは

世界的な英語辞典にも収録された ‘HIKIKOMORI’
この社会課題への「生物/心理」labo.連載です!
―― スタート回は加藤隆弘さん(九州大学病院精神科神経科)に思いの丈を語ってもらいます。


わたしのひきこもり

[加藤隆弘]


《みんなのひきこもり》という連載をはじめることにしました。
このタイトルを目にしてどのような印象を持たれるでしょうか? ――「『みんな』とはどういうことだ! 俺はひきこもりじゃないぞ!!」と非難したくなる方が多いかもしれません。NHKの音楽番組「みんなのうた」、あるいはサザンオールスターズの『みんなのうた』を連想される方もおられるかもしれません。

私は、精神分析的な足場をもつ精神科医として日常臨床のなかで「社会的ひきこもり」〔このあとは“ひきこもり”と呼びますね〕と言われるような方々と出会い、彼ら・彼女らに向き合っている日々です。並行して、国内外の研究仲間とともに“ひきこもり”の病態解明と新しい治療法開発のための国際共同研究(参考WEB記事)をすすめています。
「ひきこもり」という言葉は、世界で最も有名な英語辞書であるOxford Dictionaryに ‘Hikikomori’ という形で紹介されるほど、国際語になりつつあります。日本以外の国々で「ひきこもり者」の存在が次々と報告されており、“ひきこもり”は国際的なトピックになりつつあるのです。だからといって、もちろん、世界中のみんなが将来“ひきこもり”になると言いたいわけではありません。

なのに、なぜ「みんな」の“ひきこもり”なのか?
そのわけはここでは明かしませんが、私は、そもそも「みんな」という言葉が大嫌いなのです。生理的に「みんな」という言葉に反応してしまう人間なのです。家族から『みんなは○○しているのに、貴方は?!』と言われることほど苦痛なことはありません。こうした場面で、私は内心「『みんな』って誰だよ! 俺は『みんな』じゃないぞ!」と思うのです。
こうした心性を、私だけでなく、少なくとも一部のひきこもり者は持っているのではないかと思うのです。「みんな」という言葉が頻用されるこの日本社会であればこそ、ひきこもり者が100万人も存在するのではないか? と空想することさえあります。

サザンオールスターズの『みんなのうた』、この機会にまじまじと歌詞をながめてみました。失恋と孤独感をテーマにした曲なのですね。
この連載では、「みんな」という言葉をキーワードにしながら、“ひきこもり”のことを考える場を提供できればと思っています。私たち一人一人のこころのなかに“ひきこもり”的な部分がきっとあるだろう、と私は思っているのです。みなさん、日本の、世界の、そして自分自身の “ひきこもり” に出会ってみませんか?!


加藤隆弘加藤隆弘(かとう・ たかひろ)

九州大学病院 精神科神経科 講師
日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医
共著『北山理論の発見』(創元社 2015年)など
●参考WEB記事のURL https://www.data-max.co.jp/article/21378?rct=health